「新世界」

天地280mm×左右225mm/上製布貼/88P/
ISBN-978-4-904635-08-7/C0072

舞い踊るうつくしい桜の季節、私のぱんぱんに膨らんだおなかから新しい生命が生まれてきた。その小さい人は、これまでに見たどんな人間よりも鋭く強い目で、私達をずっと、まっすぐに、見ていた。射抜くような透明なその目は、何かの始まりを、知らせているように思った。ひとめ見ると同じように見える、でも、全く別の、何かを。

そして一年、彼は二本の脚で歩き始め、次の桜を待つころ、大きな地震がすべてを揺るがした。かなしくておそろしくて、こどもを抱えて私は大きな声で泣いた。世界がかなしみの灰色に塗りつぶされたように思った。

それでも毎日、私たちの細胞は以前よりも大きな音を立ててぷちぷちぷちぷちと分裂し続けた。ふくらみ、広がり、色を鮮やかにして、高らかに歌を歌うように踊り、やがて溶けて、ひとつになっていった。それはひとつの大きなまばゆく白い光のように思えた。

私は夢中で、新しい、圧倒的な、その光の存在を確かめる手がかりを、ひとつひとつ、写真におさめて行った。見逃さないように。壊さないように。既に知っていたと思うすべてのものごとに、新しく、名前をつけ直すように。生まれたままのほんとうの色に、戻していくように。

生きたい。とにかく生きたい。死ぬまで生きたい。新しい名前を持ったあらゆるものと、愛するものたちと一緒に生きたい。太陽に喜び、風に喜び、土に喜び、水に喜び、月に祈って、毎日生きたい。生きるっていうのは、つまり、そういう営みをえんえんと生き生きと力の限り続けていくことなのではないかと思う。

この、新しい、世界で。

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